「派遣社員に注意したいけれど、パワハラと言われないか不安…」
「正社員と同じように指導していいのだろうか?」
現場の指揮命令者として、派遣社員への「注意の仕方」に頭を悩ませていませんか?派遣社員は自社の直接雇用ではないため、不用意な一言が法的トラブルや早期離職、さらには派遣元との関係悪化に発展するリスクを孕んでいます。
しかし、業務上のミスや勤怠の乱れを放置すれば、職場全体の生産性や士気に悪影響を及ぼします。大切なのは、労働者派遣法などのルールを守りつつ、感情論ではなく「業務指示」として適切に伝える技術です。
本記事では、派遣社員への正しい注意の仕方を徹底解説します。言ってはいけないNGワードから、ケース別の具体的な伝え方、改善が見られない場合の派遣会社との連携術まで、現場ですぐに役立つ知識を網羅しました。
この記事を読めば、法的リスクを回避しながら、派遣スタッフと円滑な協力関係を築くための「正解」がわかります。
派遣社員への注意の仕方|トラブルを防ぐための結論
指導は「業務指示」の範囲内にとどめるのが原則
派遣社員を受け入れている現場責任者やリーダーがまず心得ておくべき最も重要な点は、派遣社員との間に「雇用契約」がないという事実です。指揮命令権は派遣先にありますが、これはあくまで契約で定められた業務を遂行させるための権利です。したがって、注意や指導を行う際は、個人の性格や人間性を否定するような内容ではなく、業務上の不備や改善点に限定した「指示」としてのスタンスを貫く必要があります。
正社員に対する指導であれば、将来のキャリア形成や組織への忠誠心を期待して、時には厳しい言葉を投げかける場面もあるかもしれません。しかし、派遣社員に対して同様のアプローチを取ると、心理的な距離が広がるだけでなく、契約範囲外の要求と捉えられてトラブルに発展するリスクが高まります。注意をする目的はあくまで「契約通りの業務品質を確保すること」にあると割り切ることが、円滑なマネジメントの第一歩です。
また、指導の際は必ず「何が問題で、どう改善してほしいのか」を客観的な事実に基づいて伝えるようにしてください。主観的な感情を交えず、数値や具体的な行動指標を用いることで、相手も納得感を持って改善に取り組むことができます。例えば、「やる気が感じられない」と注意するのではなく、「規定の入力作業が予定より2時間遅れているため、手順を見直してほしい」といった具体的な伝え方が求められます。
改善が見られない場合は派遣元(派遣会社)を介して伝える
現場で直接注意を促しても一向に行動が改善されない、あるいは同様のミスを繰り返すという場合には、派遣先の担当者だけで解決しようとせず、速やかに派遣元の営業担当者へ連絡を入れるべきです。派遣社員の雇用主はあくまで派遣会社であり、スタッフの勤怠管理や勤務態度の是正、能力開発に関する最終的な責任は派遣会社が負っています。
現場での直接的な注意が改善に結びつかない背景には、スタッフ本人のスキル不足だけでなく、契約内容の認識相違や職場環境への不適応などが隠れているケースも少なくありません。派遣会社を介することで、第三者の視点から本人の本音や事情を聞き出すことができ、より根本的な解決策を見出しやすくなります。また、派遣会社側から「雇用主としての指導」を行ってもらうことで、スタッフ側の受け止め方もより真剣なものに変わります。
派遣元への相談を躊躇して現場で厳しく指導し続けると、スタッフが「いじめを受けている」「パワハラだ」と感じてしまい、突然の欠勤や退職、さらには法的な紛養に繋がる恐れがあります。企業としてのリスクヘッジの観点からも、一定の改善が見られない段階で早めに派遣会社という「外部の窓口」を活用することが、最も賢明な判断と言えるでしょう。
派遣社員に注意する前に理解しておくべき法的な注意点
パワーハラスメント(パワハラ)と見なされる境界線
派遣社員に対する注意がパワハラと見なされるかどうかは、厚生労働省が定義する3つの要素に基づきます。それは「優越的な関係を背景としていること」「業務上必要かつ相当な範囲を超えていること」「労働者の就業環境が害されること」です。派遣先の上司と派遣社員の間には明確な職務上の上下関係(優越的な関係)が存在するため、指導の仕方が「業務上の必要性」を逸脱した瞬間にパワハラのリスクが発生します。
具体的には、業務上のミスに対して他の従業員の前で大声で叱責したり、執拗にメールで人格を否定するような言葉を送り続けたりする行為は、業務上の必要性を超えていると判断されます。派遣社員は立場上、正社員に比べて意見を言い出しにくい状況にあるため、周囲が考えている以上に精神的な苦痛を感じやすい傾向にあります。指導の際は「場所」や「時間」「言葉選び」に細心の注意を払わなければなりません。
万が一パワハラと認定された場合、被害を受けたスタッフから損害賠償を請求されるだけでなく、派遣先企業としての社会的信用も大きく損なわれます。また、派遣法においても派遣先は適切な就業環境を整備する義務を負っているため、指導体制の見直しを余儀なくされる可能性もあります。
契約外の業務に関する注意・命令は契約違反になる恐れ
派遣社員が従事する業務内容は、派遣先と派遣元の間で結ばれる「労働者派遣契約」によって厳密に定められています。契約書に記載されていない業務を命じること自体が契約違反ですが、その契約外の業務に対して「やり方が悪い」「スピードが遅い」と注意を行うことは、二重の意味で法的な問題を引き起こします。
例えば、「事務作業」の契約で就業しているスタッフに対し、人手が足りないからといって勝手に「倉庫での荷出し作業」を命じ、その作業効率が悪いとして叱責するケースがこれに当たります。スタッフ側からすれば、本来やるべきではない仕事で評価を下げられることになり、強い不満と不信感を抱く要因となります。これは「契約自由の原則」にも反する行為であり、派遣先企業のコンプライアンス意識が問われる事態です。
もし現在の業務範囲を超えた対応を求めたいのであれば、まずは派遣会社と契約内容の見直し(変更契約の締結)を行うのが正しい手順です。勝手な判断での業務命令や注意は、スタッフの離職を招くだけでなく、労働局からの是正指導の対象となることもあるため、常に「契約の範囲内か」を確認する癖をつける必要があります。
「二重派遣」や「偽装請負」を疑われないための適切な指示系統
派遣社員への注意を行うにあたって、指示を出す「人」の特定も重要です。派遣社員に対して直接業務指示を出せるのは、契約上定められた「指揮命令者」のみです。例えば、別の会社から来ているB社の社員が、自社(A社)の派遣社員に直接注意や指示を出すような状況は、実質的な「二重派遣」とみなされるリスクがあり、法律で厳格に禁止されています。
また、業務委託(請負)として受託している企業のスタッフに対し、委託元の社員が直接注意をすることも「偽装請負」に該当します。このように、指示系統が複雑化している職場では、誰が誰に対して注意を行う権利があるのかを明確にしておかないと、意図せず法令違反を犯してしまうことになります。
適切な指示系統を守るための比較を以下の表にまとめました。
| 区分 | 指揮命令権の所在 | 直接の注意・指示 |
|---|---|---|
| 派遣社員 | 派遣先企業(指揮命令者) | 可能(契約範囲内のみ) |
| 請負・委託スタッフ | 受託側企業の責任者 | 不可(発注元からの直接指示は禁止) |
| 他社からの出向者 | 出向先企業 | 可能(出向契約に基づく) |
指示系統を正しく維持することは、法遵守だけでなく、スタッフの混乱を防ぐ意味でも不可欠です。複数の人間からバラバラな内容で注意を受けると、スタッフは誰の指示を優先すべきか判断できず、ストレスを増大させてしまいます。
【ケース別】派遣社員への上手な注意・指導の具体例
遅刻・欠勤など勤怠不良が目立つ場合の注意法
勤怠不良については、感情的に責めるのではなく「事実の確認」と「ルールの再徹底」を淡々と行うのが鉄則です。遅刻が多い場合、まずは本人に理由を確認しますが、その際も「やる気があるのか」といった精神論ではなく、「〇時〇分までに着席して業務を開始するのが契約上のルールである」という客観的事実を提示します。
具体的なアプローチとしては、以下のような手順を踏むのが効果的です。
- 遅刻や欠勤の履歴を正確に記録し、本人に提示する。
- 勤怠の乱れがチーム全体の進捗にどのような影響を与えているか説明する。
- 体調不良や家庭の事情など、やむを得ない理由があるかヒアリングする。
- 今後の改善策(何時までに連絡するか等)を具体的に約束させる。
もし改善の約束が守られない場合は、速やかに派遣元に報告しましょう。派遣元はスタッフの給与支払いや社会保険の管理を行っているため、勤怠不良は雇用主としての管理責任に直結します。派遣会社側から「このままでは契約更新が難しくなる」と伝えてもらうことで、本人の意識改革を促すことができます。
業務上のミスが多く、能力不足を感じる際のアプローチ
業務上のミスが続く場合、単なる不注意なのか、それとも求められるスキルセットに本人の能力が追いついていないのかを見極める必要があります。注意をする際は「なぜミスが起きたのか」というプロセスに焦点を当て、具体的な手順の確認やマニュアルの再構築を一緒に行う姿勢を見せることが、早期の戦力化に繋がります。
能力不足を感じる際に行うべき具体的なアクションは以下の通りです。
- 現在の作業フローを書き出してもらい、ミスの発生ポイントを特定する。
- 指示の出し方が不明確でなかったか、派遣先側の要因も振り返る。
- ダブルチェックの体制を整えるなど、仕組みでカバーできる方法を検討する。
- それでも改善しない場合は、契約時に求めたスキル条件と実態の乖離を整理する。
注意点として、能力不足を理由にその場で「明日から来なくていい」と告げることは絶対に避けてください。これは不当解雇(契約の中途解約トラブル)にあたります。スキルのミスマッチが深刻な場合は、教育訓練の実施状況やこれまでの指導記録を揃えた上で、派遣会社と今後の配置や契約について協議するのが正解です。
職場の人間関係やコミュニケーションに問題がある場合
「挨拶をしない」「周囲と協力しようとしない」といった態度の問題は、個人の価値観が関わるため注意が非常に難しいケースです。しかし、職場の和を乱す行為は業務の円滑な遂行を妨げるため、放置はできません。この場合は、個人の性格を直そうとするのではなく、「職場におけるプロフェッショナルとしての振る舞い」を求めるという視点で注意を行います。
注意の仕方のポイントは、「主観的な印象」ではなく「具体的な行動」を指摘することです。「態度が悪い」ではなく「報告・連絡・相談が不足しており、チームの連携が遅れている」と伝えます。また、派遣社員側が正社員との壁を感じて委縮している可能性もあるため、まずは話しやすい雰囲気を作り、本人が抱えている疎外感や不満がないかを確認することも有効です。
身だしなみやビジネスマナーが不足している場合
服装や言葉遣いなどのマナーに関する注意は、本人のプライドを傷つけやすいため、細心の配慮が必要です。まずは自社の就業規則やドレスコードを明確に示し、「個人の自由を制限するのではなく、来客対応やブランドイメージ保持のために必要なルールである」という根拠を説明します。
- 「その格好は変だ」ではなく「弊社のドレスコードでは襟付きの服を着用することになっている」とルールを引用する。
- 電話対応などのマナーが不足している場合は、自社の標準的なスクリプトを渡して再トレーニングを行う。
- 身だしなみの乱れが不快感を与えるレベルである場合は、個室で1対1で伝える。
マナーに関しては、派遣会社が事前に十分な研修を行っていないケースもあります。改善が見られない場合は派遣会社に「貴社の教育基準はどうなっているのか」と確認を入れることで、派遣元での再教育を促すことが可能です。
派遣社員に「言ってはいけないこと」と守るべきマナー
「派遣のくせに」など立場を蔑むような発言
派遣社員という雇用形態を理由に差別したり、見下したりする発言は、人格否定にあたるだけでなく、名誉毀損や不法行為として訴えられる可能性がある非常に危険な言動です。「派遣だから責任感がない」「これだから派遣は」といったレッテル貼りは、スタッフのモチベーションを決定的に奪うだけでなく、企業のコンプライアンス体制そのものを疑われる原因になります。
たとえ冗談のつもりであっても、雇用形態による格差を強調する言葉は、現代の職場においては厳禁です。派遣社員はプロフェッショナルとして特定の業務を担いに来ているパートナーであり、正社員の下請けではありません。リスペクトを欠いた言動は、優秀な人材の流出を招くだけでなく、SNSなどでの悪評拡散といった二次被害を生むリスクもあることを強く認識すべきです。
正社員と比較してプレッシャーを与える言動
「正社員はもっとやっている」「〇〇さんは同期なのに君は…」といった、正社員との比較によるプレッシャーも避けるべきです。そもそも正社員と派遣社員では、責任の範囲も雇用条件も異なります。異なる前提条件を持つ対象を比較して叱責することは論理的ではなく、スタッフに強い不公平感を与えます。
また、「正社員になりたいならもっと働け」といった、直接雇用を餌にした過度な要求も問題です。これは「期待権の侵害」とされることがあり、後に正社員登用されなかった場合に大きなトラブルに発展します。注意はあくまで「本人に求められている契約上の役割」に対して行われるべきであり、他者との比較は百害あって一利なしです。
プライベートや雇用条件に過度に踏み込む質問
注意やコミュニケーションの過程で、本人のプライベートや時給などの雇用条件について根掘り葉掘り聞くことも、マナー違反および法的リスクに繋がります。特に時給については、派遣元企業との守秘義務がある場合が多く、派遣先が直接聞き出すことは適切ではありません。
また、結婚の予定や家庭の事情など、業務に直接関係のない個人情報について尋ねることは、セクシャルハラスメントやプライバシー侵害と受け取られる可能性があります。注意を行う場であっても、話の内容は「業務」に関することに厳格に限定し、私的な領域に踏み込まないことが、プロとしての健全な関係を維持する秘訣です。
感情的に怒鳴る、または周囲の前で見せしめのように叱る
どれほど重大なミスがあったとしても、感情を爆発させて怒鳴りつけることは、教育ではなく単なる攻撃です。特に他の社員や派遣スタッフがいる前で公開処刑のように叱る行為は、本人の自尊心を深く傷つけるだけでなく、それを見ている周囲の社員の士気も低下させ、職場環境を悪化させます。
注意をする際は以下のルールを徹底しましょう。
- 注意は必ず別室や、周囲に声が漏れない落ち着いた環境で行う。
- 感情が高ぶっている時は、一度時間をおいて冷静になってから話す。
- 「お前」「あんた」といった言葉遣いはせず、常に敬意を持った呼称を使う。
- 最後には「期待しているからこその指摘である」とフォローを入れ、前向きな形で話を終える。
自社で解決せず派遣会社(営業担当)に相談すべきタイミング
本人に直接注意しても全く改善の兆しがないとき
派遣先企業が直接指導を行える回数には限界があります。2〜3回程度、具体策を提示して注意しても行動に変化が見られない場合は、個人の資質や意識の問題である可能性が高いため、派遣会社へボールを戻すべきタイミングです。派遣会社には、スタッフがなぜ改善できないのかを調査し、雇用主としての適切な指導を行う義務があります。
この際、派遣先としては「いつ、どのような内容で注意し、それに対して本人がどう反応したか」という記録を派遣会社に提供することが重要です。正確な情報があることで、派遣会社も具体的なアクションを起こしやすくなります。
重大なコンプライアンス違反や守秘義務違反が発覚したとき
情報の持ち出しやSNSへの不適切な投稿、ハラスメント行為、横領など、企業の根幹を揺るがすような問題行動が発覚した場合は、即刻派遣会社へ連絡しなければなりません。これらは単なる「注意」の範疇を超えており、契約解除や損害賠償の検討が必要な事態です。
こうしたケースでは、現場での注意を最小限に留め、事実確認を優先してください。派遣会社を交えて本人へのヒアリングを行い、法的措置を含めた対応を協議することになります。派遣先が独断で厳しい処分を下すと、手続き上の不備を突かれるリスクがあるため、必ずプロである派遣会社と連携して進めましょう。
ミスマッチにより契約解除(中途解約)を検討したいとき
「これ以上、このスタッフに業務を任せるのは難しい」と判断し、契約の更新停止や中途解約を検討し始めたら、その意向を早めに派遣会社に伝える必要があります。ただし、派遣先からの都合による中途解約は、派遣法および契約によって厳しい制限があり、解雇予告手当に相当する費用の負担などが生じる場合があります。
円満に交代や終了を進めるためには、以下のプロセスが必要です。
- これまで行ってきた指導の内容と結果をエビデンスとして整理する。
- 派遣会社に対し、現状の課題を明確に伝えた上で、改善か交代かの相談を正式に行う。
- 次のスタッフの手配や引き継ぎ期間を考慮し、余裕を持ったスケジュールを立てる。
まとめ
派遣社員への注意は、正社員への指導以上に「法的な枠組み」と「役割の境界線」を意識する必要があります。直接雇用ではないからこそ、感情に任せた叱責や契約外の要求は避け、あくまで「業務上の必要性」に基づいた客観的な指示に徹することが、トラブル回避の鉄則です。
現場での改善が難しいと感じた際には、迷わず派遣会社という専門のパートナーを頼りましょう。適切な指示系統を守り、リスペクトを持ったコミュニケーションを心がけることで、派遣社員は貴社のビジネスを支える心強い戦力となってくれるはずです。



